BOSS / CE-2 (Chorus) その5
コーラスとかディレイとかエコーとかフランジャーにはBBD(Bucket-Brigade Device、バケツリレー素子)を使う。上図のピンク(IC3)がBBD、青(IC4)がBBD用のクロックジェネレータだ。ICの型番「MN3207」が1024段、「MN3205」が4096段のBBDなのだが、コーラスの場合は1024段(最大遅延51.2ms)が使われるらしい。3205は最大遅延が204.8msなのでコーラス向きではなくディレイやエコー用だ。ちなみにどちらも古くてもう売っていないが、代替品が秋月で買える。
データシートの先頭を見てみると1024段で51.2msが得られるらしい。
1段あたり50μs遅延だが、この時の入力クロックは10kHz(周期100μs)らしいから、1段駆動するのに0.5クロックということだ。
最大クロックが200kHz(周期5μs)なら、遅延時間が0.5クロック×1024段×5μs=2.56msという計算になる。ダイナミックレンジが広いとか、低歪率とか書いてあるが、クロックが10kHzだとギリギリ可聴域に入ってしまうので、フィルタは必須になる。
電気的特性としては「入力周波数」が最大10kHzになっているので、事前にフィルタで10kHz以上をカットする必要がある。また入力電圧振幅も「0.36Vrms」以下にしなければならない。問題はノイズレベルだが、条件が良ければS/Nが73dB(0.02%)みたいなことが書いてあるが、雑音電圧は0.25[mVrms]は覚悟しなければならない。
BBDにクロックを与えるのが「MN3102」クロックジェネレータだ。ただ、BBDには変な電圧端子があって電源電圧の「14/15」を供給する必要があるのだが、MN3102にはその端子も用意されている。だから、いつも「MN3207+MN3102」(またはMN3205+MN3102)の組み合わせで使用するのが簡単なわけだ。
接続する抵抗とコンデンサによって発振周波数を可変できる。
BBDの方には200kHz以上のクロックは入れられないので、上図の例1はBBDには良くないし、上限周波数は200kHzを下回るようにボリューム周りの定数を決める必要がある。
BOSS / CE-2についてはここまでとする。
BOSS / CE-2 (Chorus) その4
BBDにはそこにクロックを提供するICがあり、普通はBBD(IC3)+クロックジェネレータ(IC4)の組み合わせで使用する。クロックジェネレータが一定クロックを発生させると、BBDで一定の遅延時間が得られる。だから、クロックを低周波発信器(LFO)で可変すれば、遅延時間を周期的に可変できる。
上図の青いところがそのLFOであり、解析すると三角波ジェネレータになっている。VR1を回すことで周期は3sから277msまで変化する。
問題はその後ろの回路(回路図のピンクで囲った部分)なのだが、うまく解析出来なかった。クロックジェネレータ(IC4)の周波数を決めるのが抵抗値であり、その変化は対数変化なので、「電圧を対数的に抵抗値に変換する回路」と推測しているのだが、ダイオードD1のカソード端が電源電圧近くに貼りついてしまい、電流がその先で流れない。なんでだろう。
短いけど今日はここまで。
BOSS / CE-2 (Chorus) その3
今回はBBD(IC3)への入力前後に配置されている特殊なエミッタフォロア(上図の青い四角部分)を見てみよう。たぶんフィルタ回路だな。前も後ろもだいたい同じ回路定数なので同じ効果が得られているはずだ。
モデル化した結果が以下の回路であり、「in」が入力、途中に「1」「2」「3」「4」とラベルを貼り、出力が「out」だ。
outでの周波数特性は以下の通り。10kHz以上を大幅に(急峻に)カットしている。
20kHzで-28.625dB、40kHzで-47.41dBだから-18dB/Octぐらいの3次LPFと言っていい。ラベル「1」では20Hz以下の直流をカットする普通のHPFだ。
V(1)基準でV(2)を見てみるとちょっと10kHzあたりに後段の影響がでているけど、ふつうのLPFだと思っていい。
次にV(2)基準でV(3)を見るとバッファ回路にLPFを組み合わせたようになっている。これはそもそもV(3)がV(out)基準(つまりフィードバック回路)になっているからだ。
V(3)基準のV(4)は普通のLPFになっていて、V(4)はV(out)とほとんど同じになる(エミッタフォロアなだけに)。
結局、前段のエンファシス回路で1kHz以上を増幅して、ここで10kHz以上をカットするという前処理回路になっている。事前にここまで配慮しなければいけないBBDが、いかに扱いにくい素子であるか、ということが良くわかる。
今日はここまで。図が多いな。
BOSS / CE-2 (Chorus) その2
上図はBOSS/CE-2(Chorus)の回路図であり、今日は赤丸部分(初段のエミッタフォロアの次のオペアンプ回路)および青丸部分(ミキサー回路)を見てみよう。コーラスは微妙に遅延させて最後に混ぜるのが基本構成であって、遅延部分をゆっくりと変化させることでジョワーンという効果がでるわけだ。
IC1(オペアンプ)の7ピンは出力、その隣(6ピン)は反転入力でエミッタフォロアからの信号が入る。5ピンはバイアスにつながっていて、普通の反転増幅回路かと思ったら、入力がラグリードフィルタっぽくなっている。周波数特性を解析してみると、10kHzあたりに大きな盛り上がりがある(100Hz付近は0dBなので反転バッファになっている)。
これはあれか、エンファシス回路(BBDはノイズが多いから最後はカットしたいけど、音が変わっちゃうのであらかじめ増幅しておく)のようだ。最終段のミキサー回路(IC1のもう半分)がディエンファシス回路(事前に持ち上げた高域を下げる、と同時に高周波ノイズも下げる)になっているんだろうな。と解析してみたらまさにその通りだった。
ちなみに、次段を基準にミキサー段だけの周波数特性を見ると、以下の様になっており、ディエンファシス回路であることが良くわかる。
短いけど今日はここまで。
BOSS / CE-2 (Chorus) その1
上図はBOSSのCE-2という「コーラス」の回路図だ。モジュレーション系(フェイザーやフランジャー)に分類され、空間系(ディレイやリバーブ)とは別みたいに言う人が居るが、使われている素子はBBDというバケツリレーで音を遅延させるICであり、ディレイに近い。ただし、コーラスに使われるBBDは遅延時間が短い(数十ms)タイプのやつだ。
このBBDというのはかなりの曲者で、ノイズは多いし、周波数特性は悪いし、ダイナミックレンジは低いし、入力インピーダンスが低いし、電圧範囲が狭いし、ほんとに扱いが面倒だ。当時はこれかテープしかなかったので、仕方がないんだが、性能の低さを補うための付加回路のおかげで、独特な味付けがされるようになってしまい、ディジタルディレイでは得られないような音が「結果的に」得られている。まぁそれが顕著に現れるのはコーラスじゃなくて、ディレイなんだけど。
さて、回路を最初から見てみよう。BOSSは「トゥルーバイパス」なんて変なこだわりもなく、普通にバッファで受けるように回路を構成する。
極めて普通のエミッタフォロアだが、入力インピーダンスはほぼ470kΩになっている。
上図の左下にあるバイアス(中間電位)を決めるところが半固定抵抗(VR)になっている(なお、ここの他にもバイアス回路がある)。これはBBDの入力電圧範囲が狭いので、バイアスを調整したくなっちゃうからだ。
初段の周波数特性は以下の通り、極めて普通。若干0dBを下回る(-2dB)がまぁこんなもんだ。
入力インピーダンスは407kΩ(1kHz)である。公称(?)470kΩに近いと言えば近いが、オペアンプを使えばよいのでは?とも思う。問題はコストかな。
今日はここまで。
1石反転増幅・エミッタ接地回路
上図は既出の「Foxey Lady」の回路なのだが、初段の形式は普通のエミッタ接地回路にNegative Feedback用のコンデンサを取り付けた形になっている。
今日はこのエミッタ接地回路を「HiFi回路」として、つまり低歪の普通の増幅回路としてエミッタ接地回路を設計すると、どうなるかを見てみよう。
この場合はだいたい以下のような定数になるのだが、その理由を見ていこう。
入力がギターだと信号源抵抗が大きい(数十~数百kΩ)し、最大出力電圧(片振幅)は1Vくらいだ。この信号源抵抗が大きいということは、受け側の回路の入力インピーダンスは、この信号源抵抗よりも大きくしなければいけない。一方で、MΩ級の抵抗というのは熱雑音も多いし電磁誘導も受けやすいしとにかく回路がロクなことにならない。従って、入力インピーダンスに大きく影響するRaには470kΩか680kΩを選択することになる。今回はRa=470kΩとした。Rbは回路の動作を決める重要な抵抗なので、後で力業によって値を決めよう。計算するのが面倒くさい。
エフェクター回路だと電源は9Vが普通、つまり±4.5Vが最大定格になる。最大定格の半分以下で使うのが普通の設計なので、±1Vの信号を増幅するのは±2Vくらいまでになる。ここでは2倍くらいの増幅率を考える。増幅率が2倍くらいということは、Rc/Reが2倍くらいってことだ。
入力信号が±1Vだから、トランジスタのベースにも±1Vの信号が入力される。そしてエミッタにはベースより600~700mVくらい低い電圧がそのまま表れる。この性質を利用してエミッタフォロアを構成するのだが、これはまた別の話。下図の赤がベース電圧、緑がエミッタ電圧だ。
エミッタ電圧が±1V振幅を保てるには、エミッタの無信号時の電圧は1V以上、もうちょっと余裕を見て2Vくらいが必要だ。トランジスタのエミッタには1~2mAを流すのが妥当なので、Reは1~2.2kΩ位がいい。
一方のコレクタ側抵抗Rcの方は回路の出力インピーダンスを決めるので、なるべく低い方がいい。増幅率2倍、Rcは低い方がイイ、Reは1~2.2kΩということで、ここではRc/Re=2.2kΩ/1kΩとした。
次段のインピーダンスとは無関係にしたいので、出力負荷抵抗RLは10MΩ、直流分のカットのためのコンデンサCLは0.1μFとした。ここは結果的にHPFを構成していて、カットオフ周波数は、0.6Hzくらいになる。入力側のコンデンサは入力インピーダンスが決まってから再評価するとして、仮にCin=0.1μFとしておこう。これでRb以外は皆決まった。
計算すればもちろんRbも求められるのだが、ここでは力業で抵抗値を探してみよう。解析結果のV(out)の歪が最も少なくなる抵抗値Rbを調べてみる。抵抗の値はE16系列とよばれる「1.0、1.5、2.2、3.3、4.7、6.8」を使い、倍率10k~1Mを掛けた。つまり10kΩから6.8MΩまで、Rbを変化させてv(out)の歪率を求めた。下図は出力v(out)だが、いくつも「ダメ」な結果が得られていることがわかる。つまりRbの使用可能範囲は結構狭いわけだ。
Rbと歪率の関係をグラフで見ると以下の様になる。歪率が最も低くなるのは330kΩ、次点が220kΩだ。150kΩか470kΩでは歪率が1%になってしまう。
抵抗Rbを330kΩとして、入力インピーダンスを求めてみると116kΩになる。RaとRbの合成抵抗が165kΩであるから、トランジスタより先のインピーダンスがちょっと効いていることがわかる。
低い方の周波数特性を見てみる。1kHzにおける増幅率は6.682[dB]であり、これが3.682[dB]になる、つまり低域側のー3dB周波数を求めると13.68Hzになっている。Cinと入力インピーダンスがこれを決めているが、現在のCinの値0.1μFで特に問題ないということだ。
広域側も同じように見てみると41.7MHzになっているが、本当の回路ではもっと低いだろう。まぁ、いずれにしても可聴周波数域20Hz~20kHzは十分にカバーしている。
で、改めてFoxey Ladyの初段を見てみると、全然違う考えで定数が決まっていることがわかる。
まずRbが小さい(330k→47k)おかげでトランジスタがスイッチみたいな動作をする。この際、トランジスタがスイッチOFFみたいな状態になるとRcに電流が流れないので、コレクタ電圧は9Vに貼りつく。
一方でReが低く(1k→680)、Rcが大きい(2.2k→22k)なので基本的な増幅率が大きい上に、エミッタ側のコンデンサのおかげでエミッタ電圧が平滑化され、信号増幅率が極大化する(増幅率百倍?)。
まぁFuzzなんだから結果オーライなんだけど、結局、エフェクターはHiFiにこだわらないんだなってこと。
今日は書きすぎた。
Unknown / Compressor Type 2
Type2って名前は適当に付けただけ。
手持ちのエフェクター本に載っていた、アナログフォトカプラーを使ったコンプレッサ回路をちょっと改造してみたのが上の回路だ。改造点はフォトカプラの制御電圧を作るところにバッファU3を入れたのと、バイアスの安定化のためにU1を入れただけ。これらが無くても十分動作するし、その場合はオペアンプは8ピン1個だけで済む。
あれ?よく考えたらそっちの方が断然いいな…
「in」から入った信号は、オペアンプU2で増幅されるのだが、RpcとDpcの組み合わせがフォトカプラなっている。帰還抵抗Rfと並行に入っているのだが、Dpcに電流が流れてLEDが光るとRpcの抵抗が下がるように働く。電流が流れていないと40MΩくらいの抵抗値になるので、それより低いRfが効いて増幅率は10~100倍、逆にLEDに電流が流れると1kΩ以下になるので、U2はバッファアンプ(1倍)になる。
つまり音が大きいと増幅率が下がり、小さいと増幅率が上がる、ということでコンプレッサになるわけだ。Rpcは CDS(硫化カドミウムを使った光センサ)で時定数も大きいからゆっくり増幅率が変化する。これがコンプレッサの「味」となるみたいだ。
コンプレッサの効きはRsenseボリュームで決めるが、これはオペアンプU2で構成される非反転増幅回路の基本増幅率を決めている。絞り切る(ボリューム0)とRmだけが効いて増幅率は(1+Rf/Rm)≒101倍、逆なら約10倍だが、これは入力が小さい時だけの増幅率になる。
大きな音(うちのギターなら約1V)が入ると、最低でも増幅率10倍なんだからすぐ飽和するかと思いきや、この出力がU3とU4でドライブされるトランジスタQ1とQ2を駆動し、フォトカプラのLEDに電流が流れて抵抗Rpcが急降下する。ここが約1kΩ程度になるとU2の増幅率はほぼ1倍になるわけだ。
U3側はユニティゲインのバッファ、U4側は-1倍の反転増幅なので、出力電圧の上側と下側の両方がLED駆動電流に効く。このおかげでコンプレッサの効きがイイのかもしれない。
解析結果ではだいたい1.5[mA]くらい流れている。本当はアナログフォトカプラのモデル化を頑張るべきかもしれないが、実はRpcが1kΩだろうが100kΩだろうが回路の動作にはあまり変わりがない。こういうのは正弦波信号入力ではよくわからないのだ。
実際に組んで音を聞いてみると、実にいい感じに「ザ・コンプレッサ・サウンド」がする。いいぞいいぞ、これも箱に入れておこうっと。
今、アナログフォトカプラのデータシートを見直したら、元ネタのフォトカプラと実際に使ったフォトカプラの仕様が全然違うことが判明。でも考え方は同じなのでなんとかなるもんだな。