エフェクター回路の蘊蓄(うんちく)

エレキギターは弾けないが、その音は好き

1石反転増幅・エミッタ接地回路

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Fuzz (Foxey Lady) Schematic

上図は既出の「Foxey Lady」の回路なのだが、初段の形式は普通のエミッタ接地回路にNegative Feedback用のコンデンサを取り付けた形になっている。

今日はこのエミッタ接地回路を「HiFi回路」として、つまり低歪の普通の増幅回路としてエミッタ接地回路を設計すると、どうなるかを見てみよう。

この場合はだいたい以下のような定数になるのだが、その理由を見ていこう。

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Hifiエミッタ接地回路

入力がギターだと信号源抵抗が大きい(数十~数百kΩ)し、最大出力電圧(片振幅)は1Vくらいだ。この信号源抵抗が大きいということは、受け側の回路の入力インピーダンスは、この信号源抵抗よりも大きくしなければいけない。一方で、MΩ級の抵抗というのは熱雑音も多いし電磁誘導も受けやすいしとにかく回路がロクなことにならない。従って、入力インピーダンスに大きく影響するRaには470kΩか680kΩを選択することになる。今回はRa=470kΩとした。Rbは回路の動作を決める重要な抵抗なので、後で力業によって値を決めよう。計算するのが面倒くさい。

エフェクター回路だと電源は9Vが普通、つまり±4.5Vが最大定格になる。最大定格の半分以下で使うのが普通の設計なので、±1Vの信号を増幅するのは±2Vくらいまでになる。ここでは2倍くらいの増幅率を考える。増幅率が2倍くらいということは、Rc/Reが2倍くらいってことだ。

入力信号が±1Vだから、トランジスタのベースにも±1Vの信号が入力される。そしてエミッタにはベースより600~700mVくらい低い電圧がそのまま表れる。この性質を利用してエミッタフォロアを構成するのだが、これはまた別の話。下図の赤がベース電圧、緑がエミッタ電圧だ。

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エミッタフォロア

エミッタ電圧が±1V振幅を保てるには、エミッタの無信号時の電圧は1V以上、もうちょっと余裕を見て2Vくらいが必要だ。トランジスタのエミッタには1~2mAを流すのが妥当なので、Reは1~2.2kΩ位がいい。

一方のコレクタ側抵抗Rcの方は回路の出力インピーダンスを決めるので、なるべく低い方がいい。増幅率2倍、Rcは低い方がイイ、Reは1~2.2kΩということで、ここではRc/Re=2.2kΩ/1kΩとした。

次段のインピーダンスとは無関係にしたいので、出力負荷抵抗RLは10MΩ、直流分のカットのためのコンデンサCLは0.1μFとした。ここは結果的にHPFを構成していて、カットオフ周波数は、0.6Hzくらいになる。入力側のコンデンサは入力インピーダンスが決まってから再評価するとして、仮にCin=0.1μFとしておこう。これでRb以外は皆決まった。

計算すればもちろんRbも求められるのだが、ここでは力業で抵抗値を探してみよう。解析結果のV(out)の歪が最も少なくなる抵抗値Rbを調べてみる。抵抗の値はE16系列とよばれる「1.0、1.5、2.2、3.3、4.7、6.8」を使い、倍率10k~1Mを掛けた。つまり10kΩから6.8MΩまで、Rbを変化させてv(out)の歪率を求めた。下図は出力v(out)だが、いくつも「ダメ」な結果が得られていることがわかる。つまりRbの使用可能範囲は結構狭いわけだ。

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v(out)解析結果

Rbと歪率の関係をグラフで見ると以下の様になる。歪率が最も低くなるのは330kΩ、次点が220kΩだ。150kΩか470kΩでは歪率が1%になってしまう。

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抵抗Rbと歪率

抵抗Rbを330kΩとして、入力インピーダンスを求めてみると116kΩになる。RaとRbの合成抵抗が165kΩであるから、トランジスタより先のインピーダンスがちょっと効いていることがわかる。

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入力インピーダンス

低い方の周波数特性を見てみる。1kHzにおける増幅率は6.682[dB]であり、これが3.682[dB]になる、つまり低域側のー3dB周波数を求めると13.68Hzになっている。Cinと入力インピーダンスがこれを決めているが、現在のCinの値0.1μFで特に問題ないということだ。

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周波数特性

広域側も同じように見てみると41.7MHzになっているが、本当の回路ではもっと低いだろう。まぁ、いずれにしても可聴周波数域20Hz~20kHzは十分にカバーしている。

で、改めてFoxey Ladyの初段を見てみると、全然違う考えで定数が決まっていることがわかる。

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Foxey Lady初段

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普通のエミッタ接地回路

まずRbが小さい(330k→47k)おかげでトランジスタがスイッチみたいな動作をする。この際、トランジスタがスイッチOFFみたいな状態になるとRcに電流が流れないので、コレクタ電圧は9Vに貼りつく。

一方でReが低く(1k→680)、Rcが大きい(2.2k→22k)なので基本的な増幅率が大きい上に、エミッタ側のコンデンサのおかげでエミッタ電圧が平滑化され、信号増幅率が極大化する(増幅率百倍?)。

まぁFuzzなんだから結果オーライなんだけど、結局、エフェクターはHiFiにこだわらないんだなってこと。

今日は書きすぎた。