エフェクター回路の蘊蓄(うんちく)

エレキギターは弾けないが、その音は好き

BOSS / OD-1 その3

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BOSS OD-1 Schematic

まだ初段だよ。

このエフェクター回路では、抵抗R2が入力インピーダンスをほぼ決めている。ギター側の内部抵抗(出力インピーダンス)が100kΩくらいあるらしいので、エフェクター側の入力インピーダンスはその数倍は欲しい。よく選定されるのが470kΩとか1MΩなのだが、この回路の場合はもうちょっと微妙だ。何故なら、このR2の後ろに微妙な入力インピーダンスのエミッタフォロアがあるからだ。

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エミッタフォロア

トランジスタQ6のベースに入力してエミッタ(抵抗R3の上)から取り出す形態の回路をエミッタフォロアという。増幅率は約1倍なのでバッファアンプとして機能する。Q6ベースから流れ込む電流の200倍くらいがコレクタからエミッタに流れる。だから、ベースから見た抵抗R3は200倍くらいの大きさになるってことだ。

だからこのエミッタフォロアの入力インピーダンスはR3(10kΩ)の200倍、2MΩくらいになる。R2とR3×200が並列につながっているので、合成抵抗は380kΩくらいになるはずだ。解析モデルはコレ。

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入力インピーダンス解析

そして入力電圧を入力電流で割った入力インピーダンスの解析結果がコレ。

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入力インピーダンス

1kHzで409kΩだが、トランジスタの電流増幅率でこの値は左右される。それにエミッタフォロアはちょっと歪率が大きい、と思って解析してみたら別に悪くなかった。。。なんでや。

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歪率

ここで、ひずみ率を出すために「.options plotwinsize=0」というおまじないや、時系列データの細かさを決める「.tran 0 20m 10m {{10m}/65536}」という指定、フーリエ解析させる「.four 1kHz v(out1)」というコマンドを入力する。

Fourier components of V(out1)
DC component:3.35494
Harmonic	Frequency	 Fourier 	Normalized	 Phase  	Normalized
 Number 	  [Hz]   	Component	 Component	[degree]	Phase [deg]
    1   	1.000e+03	7.950e-01	1.000e+00	    0.32ー	    0.00ー
    2   	2.000e+03	2.805e-04	3.528e-04	  -95.01ー	  -95.33ー
    3   	3.000e+03	1.948e-05	2.450e-05	    5.54ー	    5.22ー
    4   	4.000e+03	7.737e-06	9.733e-06	  160.73ー	  160.41ー
    5   	5.000e+03	6.012e-06	7.562e-06	 -179.79ー	 -180.11ー
    6   	6.000e+03	4.819e-06	6.062e-06	 -179.70ー	 -180.02ー
    7   	7.000e+03	4.120e-06	5.182e-06	 -179.98ー	 -180.30ー
    8   	8.000e+03	3.611e-06	4.542e-06	 -179.88ー	 -180.20ー
    9   	9.000e+03	3.217e-06	4.047e-06	 -179.94ー	 -180.26ー

Total Harmonic Distortion: 0.035399%(0.035419%)

今日はここまで。

BOSS / OD-1 その2

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BOSS OD-1 Schematic

BOSS OD-1の解説の続き。

初段はエミッタフォロアだが、バイアス回路も示されている(下図)。

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初段

R6とR17が同じ抵抗値で電源とGNDを接続しているので、その間は中間電圧、つまり4.5Vになっている。バッテリ駆動の片電源回路(下が0V(GND)、上が9V)では、4.5Vを中心にするのが最も妥当なので、この電圧を作る必要があり、これをバイアスと呼んだりする。

C9はなるべくこの中間電位が安定になるようにするコンデンサだが、小さいと安定度が低く大きいとバイアス電圧までなかなか到達しない。この定数だとだいたい3秒くらいかかる。エフェクターとしてはこの程度は許容可能だろう。

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Bias

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V(bias)

初段のC1より左が0V(GND)を中心に振れるし、右が4.5Vを中心に振れることになる。こういうDCをカットするコンデンサは大きければ大きいほど低い周波数を通すが、実は音が悪くなる(と言われている)。容量が小さいほど高品質のコンデンサになりやすい(マイラーコンデンサとかフィルムコンデンサとかいう)。

ちなみに、この回路の場合は、初段HPFのカットオフ(-3dB)は7Hzくらい。20Hz以下はどうせ聞こえないので、7Hzくらいで十分すぎる。

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初段

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v(b)

今日はここまで。

BOSS / OD-1 その1

www.hobby-hour.com

上のリンクから拾ったBOSS OD-1の回路図を以下に示す。

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BOSS OD-1 Schematic

この回路にはギターエフェクター(慣れないけどペダルって言うらしい)回路の作法が色々と詰まっている。まずは電源周辺から。

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006P

006P積層電池はノミナル電圧が9V。単三や単四乾電池だと同じようなボリューム(=2本)では3Vにしかならないし、充電池だと2.4Vしかない。ただし、006P電池は電流がとれるわけでもない(容量は450mAhしかない、単三アルカリは1本で2000mAh程度)し、内部抵抗は比較的大きい(20~40Ωもあるらしい)。

入力端子はステレオフォーンジャックで、ここにモノラルフォーンプラグ(普通のギターシールドのこと)を差し込むと、ジャックのRチャンネルがGNDに接続されることで、回路に電源が供給される。ちょっとわからないのはACアダプタ接続時だ。

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ACアダプタ

楽器用のACアダプターは昔からセンターマイナスになっている(家電用はセンタープラスで統一された)。ACアダプタを刺すと積層電池の+側は切断されるので、無駄に電池は消耗しない。ただし、図中の赤線のようにGND側は見かけ上の内部抵抗が巨大に見える。なんだこれ?

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ACアダプタ入力部

LTSpiceで解析してみると、陽極側V(p)は1秒後に8.6Vくらい。

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V(p)

陰極側V(m)は当たり前だがGNDレベルにはならず、ー0.4Vくらい。なお、時刻0でー9Vまで下がるのは電圧差が理想的に9V一定だから。時刻0でV(p)が0V(コンデンサ電荷が無い)となるから必然的にV(m)は-9Vまで下がるわけだ。実際にどうなるかはわからない。

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V(m)

いずれにしても、電池なら内部抵抗は20~40Ω、ACアダプタだとR30+D4(470Ω以上)になってしまう。もしかしたら電池とACアダプタでは音が変わるかも。

今日のところはここまで。