エフェクター回路の蘊蓄(うんちく)

エレキギターは弾けないが、その音は好き

Electro Harmonix / Big Muff Pi その2

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Big Muff Pi Schematic

初段でほとんど矩形波に変換されているのだが、このSUSTAINボリューム(R24)も実は絶妙な回路定数の選定で、かなり大きなエフェクトがかかるようになっている。回路図R24は単純に次段に渡す電圧をリニアに決めているように見えるのだが、次段のインピーダンスの偏りのために、波形の上側と下側に大きな差異が出る。

SUSTAINを最大にしてみる(下図、R24)。

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SUSTAIN最大

この時の波形が以下のようになる。下半分が少しとがっている。下側を支える次段の入力インピーダンスが微妙に低いからだ。

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SUSTAIN最大時の波形

一方で、SUSTAIN最小では以下のように比較的きれいな矩形波になる。振幅電圧も低くて小さな音だが、次段以降でそれなりにまた増幅される。いずれにしても、このSUSTAINボリュームは初段の影響度を決めつつ、音色変化の機能も持つ。

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SUSTAIN最小時の波形

次段とその次の回路は同じ回路で2回増幅される。この増幅回路中にダイオードクリップ回路が入っていて、振幅制限される。初段は電源電圧で、次段とその次はダイオードでクリップされるということだ。

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次段とさらに次

ここで、なぜダイオードを挟むとクリップされるのか、ということを示しておこう。ダイオードは片方にだけ電流を通す「だけ」ではない。普通のシリコンダイオードは、0.5Vくらいまで両方向ともにほとんど電流を流さない。一方で、順方向が0.7Vを超えると急に電流が流れてショートしたみたいになる。逆方向は相変わらず電流は流さないのに、だ。

だから、2つのダイオードを並列に逆向きにすると、±0.5V位までは電流を通さず、±0.7V以上はよく通す、という素子になる。ここで、ダイオードの両端には常に±0.7V位の電位差が発生する。下図の回路で解析してみよう。入力は分かりやすいように片振幅1.5Vの正弦波にした。

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ダイオードクリップ回路

上図のoutの位置での電圧解析値(赤)を以下に示す。振幅はダイオードによる電圧降下分だけ少なくなっていて、電圧0付近では電圧が発生しない(電流が流れない)。

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ダイオードクリップ出力

あれ?なんだか分かりにくいな。ダイオードクリップ回路としては下図の方が分かりやすいか。

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ダイオードクリップ回路

この回路は入力が±4.5Vの正弦波(緑)を、±0.6V位の矩形波(赤)に変換する。つまりダイオード両端の電位差が±0.6V位に制限される(≒クリップされる)ということだ。

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ダイオードクリップ出力

次回はいよいよ次段の二重増幅回路に迫る。