Guild / Foxey Lady (2-Knob) その3
入力段から出力まで通して解析してみる。実際に制作することを考慮して微妙に回路定数を修正している。
ギター側のバッファの有無によって、信号源入力抵抗を「1Ω」か「100kΩ」かを切り替えた。これの差異を以下に示す。緑がバッファ付き(1Ω)、青がバッファなし(100kΩ)だ。ギターの出力インピーダンスによって大きな信号変化がある。
初段出力は異なる定数のコンデンサで「a」と「b」に分岐しているが、ここですでに大きな信号差になっている(後段のインピーダンスにも影響される)。信号源抵抗が1Ωの場合のv(a)とv(b)の差異を以下に示す。
次段はv(b)を増幅するが、これもC6&R10によるHPFで大きく変化する。信号源抵抗が1Ωと100kΩの場合のv(c)を以下に示す。位相に差があるがほとんど同じ波形になる。これは次段の増幅率も巨大なためだ。
出力直前でV(c)とV(a)がブレンドされる。信号源抵抗が「1Ω」の時のV(c)とV(a)およびV(out)を比較した結果を以下に示す。
初段も次段も反転回路であり、本来ならこれらを合成すると出力が相殺されてしまう。しかし、FoxeyLadyでは初段も次段もコンデンサによるフィルタ回路によって波形が変化しており、これによって合成出力も大きく変化する。
特にヒゲのような部分が激しい歪みというか、刺々しい(ファズっぽい?)派手な音色を追加している。ミキサとしてのFuzzボリュームによってこのヒゲの量を決めるが、全体の振幅も大きく変化する。従って、Fuzzと出力ボリュームは大きく依存する。
次回は実際に作って試してみよう。
Guild / Foxey Lady (2-Knob) その2
Foxey Ladyの初段で矩形波に変換された信号は上図の青いラインを通る。一方で初段出力を入力として、次段で増幅されてフィルタを通り抜けた信号が、初段出力とブレンドされる。この際にコンデンサを通るのだが、これが絶妙な信号変化をこのFuzzに与えている。
さて、次段の回路を見ていくと、ほとんど初段と同じ回路であり、定数が微妙に違うことがわかる。
初段出力は出力抵抗22kの矩形波である。次段は初段と同じエミッタ接地回路なのだが、入力のコンデンサと出力のHPFを考慮して、以下の回路で解析してみる。
初段出力が「in」の位置だが、内部抵抗とコンデンサC1で微分され、下図のV(in)のようになる。これが次段の増幅されるとほとんど矩形波になるのだが、出力のHPF(C3とR5)でこれも微分され、ヒゲみたいな信号に変換される。
冒頭に示したように、この次段出力が初段出力と「Fuzz」ボリュームで合成されることになる。次回は初段と次段の両方を合わせて解析すると、Fuzz回路らしさが良くわかると思う。
Guild / Foxey Lady (2-Knob) その1
Fuzzとは何か。まぁ「派手な」歪かな。上の回路図はFuzzCentralから持ってきた。
このサイトではメーカが「Guild」になっているが、元は「エレクトロハーモニクス」らしい。Wikipediaにそう書いてある。
エレクトロハーモニクスのFuzzと言えば「Big Muff Pi」であり、これは「あらゆるギターサウンドにリッチで、クリーミーなベースヘヴィサステインを加えるファズボックス」だ。そして「Foxey Lady」にもその片鱗、というか神髄が隠されてる。単純な回路なので初段から順にみてみよう。
初段の構成は普通のエミッタ接地回路だが、回路定数が普通じゃない。主にR1とR2でバイアス電圧が決まるが、ふつうはだいたい同じような値にして4.5Vが中心になるように設定される。しかし、この回路ではR2がR1の1/10なので約1Vくらいを中心に増幅されることになるが、実際には巨大増幅(≒200倍)のため出力は電源電圧で制限されて、ほぼ矩形波になる。4.5Vを中心に振れるのであればデューティは50%くらいになるが、バイアスが偏っているおかげで、へんなデューティ(+80%位?)になる。
ところがさらに問題なのは入力インピーダンスであり、この回路では18kΩ(1kHz)くらいしかない。
ギターの内部抵抗はアクティブバッファが無い(パッシブ、ふつうのギターのこと)場合には100kΩになる場合もあるらしい。正弦波の電圧源にこの100kΩの直列抵抗を設定すると、時系列TRAN解析結果は以下のようになる。
入力端で、上側振幅は低いR2で受けるために電流が多く流れて振幅が制限され、下側振幅は高いR1で受けるので電流が流れずに電圧振幅は制限されない。従って、ギター側の出力インピーダンスによって、初段出力=次段への入力波形は大きく異なる。
最大ゲインは193倍(45.7dB)だが、実際には10倍(20dB)以下で電源電圧を超えてしまうため、10Hz以上でほぼフラットな伝達率とあまり変わらない(下図の解析結果だと10Hz以上はずっと電源電圧を超えることになる)。
さて、ここまではただのオーバドライブなのだが、次段でFuzzらしい「なんじゃこりゃ」回路の神髄に迫ることになる。
BOSS / OD-1 その7
BOSS OD-1の回路を参考にしてオーバドライブ系回路を実際に組んでみた。回路は前回の記事のもの。
D1~D3はシリコンダイオード「1N4148」とゲルマニウムダイオード「1N60」を切り替えられるようにした。正弦波をいくら歪ませても実際のギターの音色がどうなるのかはわからないのだが、ここでは回路の確認の意味で正弦波入力→出力の確認をしてみる。
下図は解析結果。入力は片振幅1V、500Hz正弦波、モニタ点は中段のオペアンプ出力だ。
そして、下図は実際の回路の出力。よく似てる。
下半分の歪が無くなり、上半分だけがちょっと歪んでいる。下のFFTを見ても、奇数倍音が目立たなくなっている。すなわち、かなり大人しい音になるはずだ。
で、これを実際にギターで確認してみると、シリコンの方は極めて「普通」のディストーション(いやオーバドライブか)サウンドが得られる。一方のゲルマニウムは「…これ効いてんの?」という感じ。サステインが極めて短い、ゲインが足りてない軽すぎるほど軽いオーバドライブで、とにかく極めて静かであり、弦をこする「キュッキュッ」という音も無い。
無音時のFFTを比べてみるとシリコンは下図のように高周波まで何かがある、ノイズが高い(次段でフィルタがかかるので最終的には気にならない)状態だ。いくら低雑音アンプでもゲインが大きい回路は大抵こういう傾向が出る。
一方のゲルマニウムの方は、ノイズがほとんど無い。
これは明らかに中段のゲインがかなり低く抑えられていることを意味する。ゲインを決める帰還抵抗(回路図中のRV1)は1MΩの可変抵抗だが、ここが高ければ高いほどゲインが大きい。しかし、実質的なゲインが低く抑えられているということは、ゲルマニウムダイオードだと見かけ上の帰還抵抗が低い、RV1(1MΩ)に並列に低い抵抗が接続されている、ということだ。
よく市販の歪み系エフェクターを改造するのに「シリコンダイオードをゲルマニウムダイオード(やLED)に置き換える」みたいな記事があるが、少なくともOD-1にはそのまま適用できない。いや、適用はできるのだが満足な結果は得られないのではないのだろうか。
たぶん、ゲルマニウムダイオードと直列に高い抵抗を挿入する必要があるが、そうするとダイオードのクリッピング効果は下がるわけで、ちょうどよい値を選定する試行錯誤が必要だろう。
いずれにしても、シリコン側を使ったこのオーバドライブは極めてオーソドックスで大人しい歪みサウンドが得られる。定番回路とはこのような回路を言うのだろう。
BOSS OD-1の蘊蓄はここまで。次はFuzzかな。
BOSS / OD-1 その6
さてここまで回路を眺めて言いたいことを言ってきたけど、これを自作エフェクタに反映するならどうするか。まず、切り替えスイッチは「トゥルーバイパス」でいい。機械的スイッチで強制的に切り替えちゃうので右下のスイッチ回路系は全部不要。
初段(入力段)と出力段のバッファはオペアンプで構成するのが良いだろう。また「レベル」ボリューム(VR2)の下側がバイアスに接続されているのも気に食わないが、まぁここは大した違いもないからこのままでいいかな。
ACアダプタもやめとこう。シンプルに「電源はバッテリーだけ」でいいや。
見直したエフェクタ回路部分を以下に示す。
どんな波形になるのか?解析してみると、
ん?ずいぶん大人しいな。ちょっとっだけ、三角波っぽいだけだ。実際に作ってみないとどうだかわからないので、いつか試してみよう。
BOSS / OD-1 その5
今日は(回路図右下の)スイッチ関係の話。
エフェクターはスイッチを1回押すと、信号が切り替わってLEDが光る、という多機能な切り替えが必要だ。また、物理的に配線経路が切り替わるというのは寿命による音色劣化問題(劣化しやすい物理接点に信号を流す)がある。
何と言ってもスイッチは足で思いっきり踏まれる部位だから、壊れ易くもあるだろう。どんなギタリストでもエフェクタースイッチのメンテはするもんだ、というのもちょっと考えにくい。だから市販品として電子機器を売るエフェクターメーカであるBOSSが、電子スイッチを採用するのは妥当だろう。
このスイッチ周りの回路は マルチバイブレータという回路だ。Q3がONの時にQ4がOFF、逆にQ3がOFFの時にQ4がONになる。OFFになった方のコレクタ電圧はHighになり、例えばQ4がOFFならQ5のベースはHighになってLEDに電流が流れて光る。このピンクのところが何につながっているかというと、JFETのスイッチだ。
LED(D11)が点灯 するとき、Q1のゲート(ピンク)はHigh、Q2のゲートはLowになるので、Q1が信号を通してQ2が通さない。Q2は初段のエミッタフォロアから、Q1にはエフェクト回路からの信号が来るので、これで切り替わる。
自作エフェクター界隈では3回路スイッチを使った「トゥルーバイパス」がもてはやされているけど、BOSSは電子スイッチを使っていることもあってバッファードバイパスになっている。
まぁギターにバッファを組み込むのが最も妥当だと思うので、自作エフェクターは「トゥルーバイパス」一択で良いだろう。でもどうして3回路なんだろう?2回路スイッチでも十分な気がするけど(両接点にバイパスとエフェクタ回路を接続して、中央を出力に繋ぐ)。と思ったが、そうか、分流すると入力インピーダンスが下がっちゃうのか!なるほどね。
また、バッファードバイパスならオペアンプでバッファした方が音に影響がないと思われるんだけど、なぜか一石のエミッタフォロアが主流っぽいんだよね。なぜだろう?
今日はここまで。
BOSS / OD-1 その4
OD-1の歪を決めているのは真ん中の2つのオペアンプ回路だ。前段が波形クリップさせる非反転(巨大)増幅回路、後段が反転バッファになっている。
青いところはバイアスで4.5V、前段は典型的な単電源・非反転増幅回路にダイオードクリップ回路を足したものだ。入力端子がわかりにくいが、
1と7が出力、2と6が反転、3と5が非反転入力だ。前段は5ピン(非反転)に、後段は2ピン(反転)に信号入力がある。前段の増幅率はだいたい1+(R5+VR1)/R6になるので、8~220倍だ。フィードバック部にダイオードが挟まっているので、振幅制限されてしまう。ダイオード1個あたり約0.7V、2つで約1.4Vで非対称にクリップされる。下図の回路で解析してみる。
バッファ付きエレキの最大出力が1Vくらいなので、フルドライブ(抵抗R1が1MΩ)の場合の波形がこれ。
4.5Vが中心だが、下に約1.5V(下限3V)、上に約2V(上限6.5V)の振幅があることがわかる。なんとなく上の方がとがっている。ゲイン(VR1)を下げても入力が1Vくらい(つまりギター出力大)の時は波形はあまり変わらないのだが、入力が小さな時はゲインの大きさでかなり波形=音色変化が異なる。
つまり、ドライブはそこそこに、ギターボリュームは控えめにしておくと、ピッキングによる大きな音色変化が楽しめる。一方で、ドライブ最大&ギターボリューム最大なら、少々ピッキングをミスってもだいたい同じような音が出て、下手さ加減をごまかせる、ということだ。
こういう歪回路の周波数特性はあんまり意味はない。電源電圧以上には増幅できないし、ダイオードはほぼ無視されて計算されるからだ。ダイオードクリップのおかげで片振幅は2V以下になる。
ただし、計算された最大増幅率は約200倍、可聴域上限の20kHzまで十分な増幅率があるので、無駄にノイジーかもしれない。高周波を制限するフィルタを追加してもいい。
後段は普通の反転増幅回路であって、少し大きめのコンデンサC4でフィルタリングされている。この後段だけの周波数特性を見てみると、
カットオフ周波数(-3dB)は890Hzくらいであり、ノイジーになりがちなところは減衰させていることがわかる。
今日はここまで。